そのカメラアイに在りし日の光はなかった。
プライマスの加護か、それとも気紛れか。
顔が吹き飛び、頭部と胴体が乖離するほどの重傷を負っても、そのスパークが散ることはなかった。
生きている。
スタースクリームは、しぶとく生きていた。
生きている、とは言っても以前のように蠅のごとく飛び回ったりはしない。
鬱陶しいドローンのように俺の後ろを付きまといもしない。
今までの煩わしさがまるで嘘だったかのような静けさで、リペア台に転がっている。
「しぶとい奴だ」
思わず漏れた言葉に、返事はなかった。
リペア台に横たわるスタースクリームに明確な意識はない。
スパークは弱々しくチャンバーの中で発光しているし、ありとあらゆるプラグにコードが差し込まれエネルゴンが傷だらけの機体に供給されている。
リペア台に陳列する計測器は冷え冷えとした鈍い光を放ちながら数値を刻み続けていた。
「っ、…ぐ………ぅ……」
時折呻き声が聞こえる。
朦朧とした意識の中で何を見ているのだろうか。
それを知る術はないにしろ、心地いいものではないに違いない。
不快だ。
役立たず以下に堕ちたという事実。
虫けらに致命傷を負わされたという事実。
あの戦いが終わりオートボットとの和解を経てもなお、醜態を晒し続けているという事実。
スタースクリームに対して、何も出来ないという事実。
無力、だった。
スパークに込み上げるこの苛立ちを、抑えられそうにない。
「――くそっ」
拳が機器に叩きつけられていた。
不快な衝撃音が狭いリペアルームに響く。
立ち尽くすことしかできない。
そんな自分自身に、煮えくり返る感情を覚えた。
◆◆◆
鈍い音が聞こえた。
遠くで微かに聞こえる反響音を聴覚センサーが捉える。
爆撃か?何処かで爆発があったのか?
ああ、そういえば、戦闘中だった。
あの虫けらの小僧には不覚を取られたが、なんとか助かったのだな。
聴覚センサーしか機能しないが、早く行かなくては。
早く、復帰しなければ。
あの方の、
閣下の、
メガトロン様の、元へ。
◆◆◆
「―――メ、…っガ……ト……」
ぱちぱちと赤黒い色が灯り、点滅した。
幽かな声はノイズにまみれてしわがれ、途切れて消えていく。
計測器の数値が徐々に増え始め、波を打ち、規則正しく音を刻んでいた無機質な音が矢次早に鳴った。
震えながら宙へ伸ばされた手を、俺は無意識のうちに掴んでいた。
「―――スタースクリーム」
「か……っ、が…ぁ……?」
手が震える。
聴覚センサーが感度を上げる。
スパークに火が灯る。
我にも無く、俺は、泣いていたのかもしれない。
◆◆◆
「閣下、もう動けますから…視界にも問題ありませんし」
「五月蝿い。おとなしく寝ていろ、愚か者が」
意識を取り戻してから地球時間で6ヶ月。
まだ飛行は出来ないが、歩行は補助器なしでもできるし腕も以前と同じように動かせるようにまで回復した。
だのに閣下は未だ自由に出歩くことを許しはしないし、任務を与えもしない。
こう動かずにじっとしっぱなしだとジョイントが錆びてしまう。
副官の雑務云々はショックウェーブとサウンドウェーブに回されているらしいし…。
今の自分は副官でもなければ航空参謀でも、ただの兵士でもない。
「役立たず以下だ…」
思わずつぶやいた言葉にメガトロンのカメラアイの色が変わった、気がした。
「何だと?」
まずい。
聞かれていたか。
何故こういう時だけ地獄耳なんだろうか。
「………」
本当のことだろう?
何一つ仕事をしていない。飛べないから地を這いずり回ることしかできない。
貴方の役に立てていない。
貴方の隣に立つには相応しくない。
何も出来ない。無力な存在でしかない。
スパークが軋む。
「ならばお前に新たな役割を与えてやろう」
メガトロンは報告書である端末にカメラアイを向けていた。
そのままこちらを見ることもなかったから、不意をつかれた。
「俺の妻になれ」
ーーー時が止まった。
「毎時同じ部屋で過ごす。寝台は一つでいいだろう。俺を最優先に考え行動しろ。俺の子を産め。俺のために生きろ」
冷却水が滲んだ。
「俺も、お前を最優先にする。お前と共に生きる」
ひどい方だ。ずるい人だ。
「気に入らないのなら、辞退してもいい。お前の好きにしろ」
いつの間にかメガトロンは目の前にいた。
カメラアイには今まで見たことがない深い色が宿っている。
どちらを選ぶかなんて、そんなの分かりきっているのに…。
本当にずるい人だ。
「その役目、喜んでつとめさせていただきます」
震える声を、メガトロンの腕が抱き止めていた。
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バレンタインのお返しにといただいてしまったメガスタらぶらぶらぶん!
ピンチはカップルをよりくっつかせるのです!ダサイムンすらメガスタにはスパイスです!!!
と言い張る。
ありがとうございました////