【頂き物】ハピバプレゼント【あずきさん】

ふと、何かが聞こえた気がした。

微かに聞こえる声を頼りに扉を開けると、そこには大きなソファーに腰掛け何やら歌を口ずさむ姿があった。
うっとりと目を閉じ、両手は細い体に対してはち切れそうに大きくなった腹を撫でている。
時折ぽんぽんと軽く叩く仕草も見せた。
そして相変わらず緩やかで甘ったるい旋律は続いている。
リビングは南に向いた窓から昼下がりの日が差し込み、白を基調とした部屋をいっそう眩い空間にしていた。
以前見せられたことのある人間達が描いた宗教画にも似た、光に満ちた光景を前に男は立ち竦んでしまう。
神聖さすら感じられるそれらが何とも遠い存在のようで、扉を開けたきり動けないままで居ると声がかけられた。

「メガトロン様ですか?」

声の主は先ほどから聖母のように歌っていた者、男の妻だ。
そして妻は盲目であった。

戦争が和平というかたちで終結し、何とか生き永らえたものの受けた傷のため妻は光を失っていた。
元敵方の医師が治療を施したのだが、その際、妻の腹には男の子供が宿っていることが判明する。
長い戦争の中、失われたものは計り知れないが、今こうして生まれてくる命もあるのだと、オートボットはおろか地求人達までもがその朗報を祝福した。
しかし視力を回復させる為の治療が胎児への負担になることを知り、妻は一瞬の迷いなく子供の命を選んだ。
以来妻は暗闇の中、それは幸せそうに過ごしている。

だが、その目には何も映らない筈なのに、妻は男を見分けた。
朝目覚めた時、伸ばされた腕は男をとらえ、今のように声を掛けるまでもなく男の来訪を感知する。
不思議に思っていたら、笑いながら『あなたは独特ですから』と言っていた。
そういうものなのか。

側まで行き隣にゆっくりと腰掛ける。
こちらに顔を向ける妻の紅い目は少し焦点がずれていて、やはり見えていないのだと改めて感じた。

「歌は」
「はい」
「…もう歌わんのか」
「聴いてらしたんですね。もう一曲お望みですか」
「子守唄なぞよく知っていたな」
「ええ、まあ、子守唄も歌いますけど。でもさっきのは子守唄じゃないですよ」
「…?」
「さっきのはバースデーソングです」

「まだ生まれていないのにか」
「出てきてないってだけで、もう生まれてるんですよ」
「…よくわからんな」
「ふふ、直に聞かせてやるから早く出ておいで、って歌ってるんです」

妻はよく笑うようになった。
生まれてくる我が子の顔を見ることは叶わないのに、なんとも幸せそうに笑う。

再び愛おしそうに膨れた腹を撫でている妻に、どうにもたまらに気持ちになる。
前触れなく体を屈め顔を寄せると、妻はまた心得たように顔をあげ、見えない目を伏せた。
合わさった唇は温かく、男の肌に馴染んだ。
何も変わっていない。
妻も男も何も失ってはいなかった。

抱き寄せた妻の体越しに小さな胎動を感じる。
触れ合ったままの唇から妻のくすぐったそうな息がこぼれた。

「早く会いたいって暴れてるんですよ」

妻は男の大きな手を取り腹に重ねる。
掌いっぱいに感じる、生命力に溢れた振動。
生きている。
そこにもう、生まれている。

「パパが来た!って嬉しいんだよなー」

腹の子に話しかける妻は既に母の顔だった。
大きな傷だらけの手に重ねられた、同じく傷跡の残る薄い手はどこまでも優しい。

「もう一度歌ってくれ」
「さっきの歌でよろしいんで?」
「ああ、バースデーソングを」

緩やかなテンポで始められたメロディーに、子供も楽しげに動いている。

生まれ来る命に祝福を。
自分達のもとに授かった命に感謝を。

「はやく誕生日おめでとうって言いたいですねえ」

そして、眼と引き換えに命を生み出す、お前に、

「愛している、スタースクリーム」

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私の誕生日プレゼントにもらったメガスタ夫婦!
おとうさんとおかあさんに愛されて誕生してくるだろう子供は
とってもとっても幸せだとおもうので
いつまでもメガスタは子作りに励めがいいと思います。

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