メガスタバレンタイン【菊地寛さん】

バレンタインのお礼にと菊地さんにいただいちゃったメガスタ話。
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またこの季節か。
スタースクリームはデスク脇にこの時期だけ増設されるラック…総務課から借り出す味気ないものだ…を横目で一瞥した。
シックだが趣味よく整えられたここ、スタースクリームが自身の執務室と同じ程度に馴染んだ防衛長官の執務室に、頑丈さだけが取り柄の事務用ラックはいかにも不似合である。
だが、そのラックを埋めるものはもっと不似合いである。
色とりどりのチョコレート。
そう、今日はバレンタインデー、春を前に浮かれ騒ぐ輩が続出する厄日だ。
スタースクリームはこの、甘い匂いが大気に充満しそうになるイベントを、残念ながら楽しみにした事が一度たりとて無い。本日も自身宛のは早々に、サンダークラッカーとストッケードに任せて放置の構えである。
「失礼いたします」
顔馴染みの秘書が、またラックに幾つかの箱を置きに来る。
執務椅子に座った部屋の主は頷くだけでそちらを見もせず、卓上のモニターの向こうで難しい顔をした国家元首、そして新しいエネルギープラントの開発担当者との会議に夢中だ。だから代わりのようにスタースクリームがまたラックを一瞥すると、有能さが取り柄の、そして綺麗所が好きな主人が実力だけで側に置いて頼りにする中年のその女性秘書は、目配せだけで『まだまだ有るのよ、困ったものですわね』と苦笑して見せ、静かに退室した。
ーー本当に困ったものだ。
元首たちとの話は続くようである。元科学専攻だからと、会議の始めから資料を持たされ傍に立たされているスタースクリームは、話が利権の話題に移行してから少々暇だ。
だから積まれた、よもや積まれるなんていう扱いなど想定してもしていなかっただろう美しい箱の山に、じ…と冷ややかな視線を注いでみる。
どれもこれも、若い女性には気軽に手が出せないだろう高級品だ。
少なくとも上司にちょっと贈る日頃の感謝の品では有り得ない、そういう菓子ばかり。
先程の秘書が「秘書たち全員からですわ」と毎年贈る最高級ではないが好みの酒は、さっさと机の引き出しに仕舞われたろうから、身内の物はここにひとつも無いはずだ。
スタースクリームはふと、一番上に乗った箱に手を伸ばす。
小さい箱だが赤いリボンは本物のシルクであり、添えられた白いカードにはシンプルに紋章があしらわれている。派手さはない。だが、紋章を持てる家と言うことだけで、きらびやかなカードの数倍以上の価値がある。送り主はそれを心得ているのだ。つまりは…上流階級だ。
ここのチョコレートの贈り主は、ほとんどがそうなのだけれど。
じっとり、次の深い海のようなベルベット素材の箱に視線を移動させていると、卓上に、大きな手がさっとメモを滑らせてきた。

『欲しければ食べろ、ついでにカードの返事も書け』

なにも贈られてきたチョコレートの全てがここに届くわけではない。独身で容姿に優れた防衛長官は国民からも愛されており、贈り物をすべてここに直行させたのなら、あっと言う間に部屋は菓子やら花束やらで埋まるだろう。
だから、専門チームが検閲を行い異物や危険物が無いと判断された上でここに届けられるのは、貴族や大企業のトップや議会がらみや有力者の…その令嬢たちからの物のみ、つまりは防衛長官が直に返信したほうがよい相手からの贈答物だけだ。
それが、これほどある。
うんざりもしたくなるだろう、気持ちは分かる。
だが。
さっと、スタースクリームは、メモを返した。

『カードの返事はご自分で』

なぜ、自分が、『一度個人的にお会いしたい』や『今度パーティーにご一緒したい』や『お慕いしております』みたいな媚と秋波がぷんぷんしてくるようなカードに目を通して、しかも返事まで代筆せねばならないのか。
メモを一瞥してフンとつまらなそうに鼻で息をした防衛長官は、身振りだけでコーヒーを求めた。
流石に疲労してきたのだろう、なにしろ数日前の大雪でアイアコンは大わらわだった。スタースクリーム自身も基地施設の除雪と機能回復のために奔走し、昨日は疲労の極みでようやく家に帰ることが出来たほどだ。なに事も率先してこなす上司の疲労がさらに重いのは、いつもより老けて見える横顔を見ずとも察するは容易だろう。
こんな時に、こんなつまらん行事で……この人を煩わせて。

バレンタインデーなんか嫌いだ。

「スタースクリーム」
またじっとりと…いや、険のこもった視線で菓子の群れを睨んでいると、催促された。
口調が苛立たしいのは、国家元首と先程から意見の相違で口論じみてきたからであり(いつもの事だが、慣れていない担当者は引き攣っている。気の毒に)、さして緊急性は無いとは知っているが、自制を一瞬でも失いかける程度には疲労している証拠でもある。
「少々お待ちを、閣下」
次の間に居る先程の秘書にコーヒーを頼む。
給仕まで任せても構いはしないはずだが、今日は自分で運びたい。
これはある意味、チャンスなので。

「閣下」
コーヒーを置く、モニターの向こうでは責任者と国家元首が確認の会話をしている最中であったから、赤い視線は卓上のコーヒーに向いた。そして「おや?」と眼差しが感情を込める。
いつものコーヒーカップにいつものブラックコーヒー。
だがそのソーサーには、可愛らしく茶色い金平糖が並んでいる。
「お疲れかと、思いましたので」
溶かしてお飲み下さい、そう冷静に言い置いて、スタースクリームは先程の位置に資料を抱えて移動しようとしたが、手を掴まれていた。
ニヤニヤと愉快そうに笑う、銀色の悪魔に。
「ようやく渡してきたな、毎年買っていたくせにな」
「…何のことでしょうか、閣下」
とぼけてみるが、ニヤニヤ笑う顔には戦場で勝利を確信した時以上の満足げな感情しかない。
「あとで話そうか、スタースクリーム」
そう奇妙なほど上機嫌に言い置いて、主人はまたモニターに向かった。
チョコレート味の金平糖を一粒、かりりと噛み締めながら。

バレンタインデーなんか嫌いだ。

逃げだしたいが、そうしたら後で大惨事と心得ているスタースクリームは、主人の整った、先程よりも疲労が薄まって見える横顔に向けて呟いた。
だが同時に、奇妙な満足もあった。
少なくとも。
来年からは気後れして渡せなかった金平糖を、自分で消費せずとも済むのだ。

 

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ヒヒヒヒヒ、菊地さんにバレンタインチョコ送ったら素敵なメガスタがやってきた///
金平糖の星みたいな形に自分の名前をひっかけたらしいぞ///
自分の名前にかけた金平糖食わせようとモジモジし続けること数年のスタちゃんがようやくメガ様に食べてもらえたというかわいいお話でした!
それをずっと待ってた大帝閣下は、もらったあとで国家元首殿にようやくもらえたぞ(`・∀・´)エッヘン!!て報告するとかなんとか。
なんだそれかわいいな・・・ゴクリ

あんまいメガスタごちそうさまでした゚+。ゥフフ(o-艸-o)ゥフフ。+゚

そして私はこの後きっとスタスクのお胸の金平糖食べるんだ…って思った程度には脳みそがお花畑(ラフレシア)です。
megauta452b

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